第70章 墓場
白石さんは古い客の仕事を黒田さんに半分
預けて、僕に付き合ってくれた。
「面白そうじゃない」と白石さんはウーロン
茶の缶を片手に言った。面白そうというのは、
たぶん半分は僕を気遣う言い方だった。一人
であの墓場を掘らせたくなかったんだと思う。
二人でSのコードの履歴を頭から開いた。
最初に目に入ったのは、佐藤くんが言った
通りの惨状だった。
同じことをする処理があちこちに少しずつ
違う書き方で散らばっている。使われていな
い古いコードが消されずに残っている。やた
らと凝った作りのところと、雑に放り出され
たところが隣り合っている。——「戦犯」の
物語にぴったりの荒れ方だった。ほら、この
男が一人で引っ掻き回した。そう読める。最
初は。誰が見てもそう読むようになっていた。
「桜井くん」白石さんが画面を指した。「こ
のブランチ見てみ」
ブランチ——本筋のコードから枝分かれさ
せた作業場だ。それがいくつも切りっぱなし
で放置されていた。名前を見ると、だいたい
誰か別の人間の名前がついていた。
「森って辞めた人だよね」
「はい。二人辞めたうちの一人です」
白石さんはその森さんの名前のついたブラ
ンチを開いた。中のコードを少し読んで、そ
れから「うわ」と小さく言った。
「これは……ひどいね。動かないよ、これ」
僕も覗いた。ひどかった。動く動かない以
前の書き方だった。たぶんこの人はエンジニ
アじゃなかった。パソコンが少し得意な人。
人事が「エンジニア募集」で採って、頭数と
して送り込んだそれだけの人だ。マクロの二
人の少し若い版がここにもいた。
「で、ここからがなんだよ」
白石さんはそのブランチの履歴を時間の順
に並べ替えた。
森さんの動かないコードの上に、コミット
がいくつか積まれていた。全部、北野さんだっ
た。
「見て。北野くん、これ直そうとしてる」
一つ目のコミット。北野さんが森さんのコー
ドをなんとか動くように手を入れている。二
つ目。まだ粘っている。三つ目。コメントが
ついていた。森さん本人に宛てた教えるため
のコメントだった。「※ここはこういう理由
でこう書きます。次から参考に」。責める言
葉は一つもなかった。
そして四つ目で、ぷつん、と切れていた。