第78章 どう思う
次の日からやり方を変えた。
志望動機も、自己PRもあまり聞かない。
代わりに、机の上にノートパソコンを置く。
北野さんが書いたSのシステムの一部。わざ
と少し壊れているところを開いて、見せる。
そして聞く。「これ、どう思いますか」。そ
れから、もう一つ。「いままででいちばんひ
どいトラブルにあたったとき、どう切り抜け
ましたか」。
たったそれだけ。でも、これでだいぶ分か
るようになった。壊れたコードを前にして、
その人の目が動くかどうか。トラブルの話を
他人事みたいに語るか、それとも自分の手の
傷として語るか。——話のうまさはもう関係
がなかった。画面の中の壊れたコードは、志
望動機みたいには飾れない。
最初に来たのは三十半ばの人だった。自分
は新しいツールにとにかく詳しいというのが
売りらしかった。
「なるほど、これはですね」その人は画面を
ちらっと見て、すぐに顔を上げた。「今どき
はこういうのはAIに投げれば一発ですよ。
私、そういう最新のツールの目利きには自信
がありまして。人が一行ずつ書く時代じゃも
うないので」
「なるほど」リナさんは頷いた。「じゃあ、
AIが直したコードが正しいかどうかは、ど
うやって確かめます?」
その人は少し止まった。
「……そこはまあ動けばいいわけで。動かし
てみて駄目なら、またAIに聞いて」
「動いてるように見えて、お金がずれてたら?」
リナさんの声は優しかった。責めてはいなかっ
た。「お客さんに請求がいった後で、気づい
たら?」
「……そこはまあ、そのときにまたAIに聞
けば。要は、うまく使えばいいわけで。細か
いことは、これからは道具が教えてくれます
よ」
リナさんはそれ以上追わなかった。にこや
かに礼を言って、その人を通した。
その人が出ていったあと、北野さんが小さ
く言った。
「……AIに投げれば一発。あの人、そう思っ
てるんですね。本気で」
「思ってる」とリナさん。「悪気はないの。
噓をついてるわけでもない。ほんとにそう見
えてる。——道具がすごくなったから、自分
もすごくなった気になる。いちばん多い勘違
い」