第79章 一枚
黒田さんが抜いたその一枚を正社員として
通すのに、ひと悶着あった。
人事の宮田さんが渋ったのだ。
「あの……この方なんですが」宮田さんは言
いにくそうだった。「お人柄はいいと思うん
です。ただ、その、ご経歴が。前が印刷会社
の事務で、プログラムは独学で二年。……う
ちもそれなりの会社ですので。正社員となる
と、もう少しちゃんとしたご経歴の方もいらっ
しゃいますし。長く続くかどうかというのも、
正直」
宮田さんは悪くない。前に自分で言った通
りのことを言っているだけだ。正社員として
長くやっていけるか。人物。定着。——それ
を見るのがこの人の仕事だと、僕も認めた。
だから、宮田さんは真面目にその仕事をして
いた。
ただ、皮肉だった。
宮田さんが「もう少し、ちゃんとしたご経
歴」と言って、思い浮かべているのは、たぶ
んあの話のうまい人たちだ。立派な会社にい
た事業リーダー。——面接で剥がれたあの人
たちだ。経歴で安全を測ろうとすると、いち
ばん危ない人が、いちばん安全に見える。紙
は、いちばん危ないものを、いちばん綺麗に
書ける。