第82章 逆は、ならない
出向が半年を過ぎたころ、もう一人採るこ
とになった。
三上くんは伸びていた。ゆっくりだけど、
確かに。ただ、まだ一人では心もとなかった
し、やらせてみて分かったこともあった。三
上くんは渡された仕事を綺麗に仕上げるのは
うまいのに、自分から「次に何を作るか」を
決めたり、お客さんのぐちゃぐちゃした話を
整理したりするのはどうも苦手だった。書け
るけど、仕切れない。——チームにはもう一
つ、別の何かが要る気がしていた。うまくは
言えないけど。
面接は、今度は北野さんが仕切った。半年
前、リナさんがやっていたのを隣で見て覚え
たやり方だ。壊れたコードを見せて、「どう
思いますか」。それから、「いままででいち
ばんひどいトラブルをどう切り抜けましたか」。
もう、うちが口を挟むことはあまりなかった。
自分の船に乗せる人を、自分で選ぶ。北野さ
んは、今度は最初からそういう顔をしていた。
その日、最後に来たのが長谷川さんだった。
僕と同い年だった。二十八。履歴書を見て
少し面食らった。前はずっと営業をやってい
た人だ。いくつか会社を変わって、物を売る
仕事ばかり。プログラムは、独学で、二年。
どう見ても、書ける人の履歴書じゃなかった。
むしろ、これまで面接で剥がれていった人た
ちより、紙の上ではずっと薄かった。
壊れたコードを見せた。
長谷川さんはしばらく画面を見ていた。そ
れから、顔を上げてあっさり言った。
「正直に言っていいですか。これ、俺、パッ
とは直せないです」
会議室が少し静かになった。
これまで来た人は、みんな逆だった。分か
らなくても、分かるふりをした。ボタンの名
前だけ並べたり、「今どきはAIに投げれば
一発」と言ったり、「普通はこうする」と自
分の会社の話を始めたり。誰も「できません」
とは言わなかった。言ったら落ちると思って
いたからだ。長谷川さんはそれを、いちばん
最初に、にこにこしながら言った。
「ただ」と長谷川さんは続けた。「どこが怪
しいかは、なんとなく分かります。この日付
を触ってるあたり。ここ、たぶん月末で噓つ
くんじゃないかな。……で、俺だったら、ま
ずここをAIに聞きます。聞くんですけど」
そこでちょっと笑った。