「AIで事務の仕事が減る」「経営者は使っていない」。どちらも、仕事の中身から予測された話です。米セントルイス連銀の研究チームが、米国の労働者1万4,000人に、自分の職業の10個の作業ごとに「AIを使ったか」を訊きました。予測と実際が一番ずれていたのは、事務と、経営者でした。
① 事実
米国の労働者に、職業と、その職業で重要な10個の作業を示し、どの作業にAIを使ったかを訊いた調査です。職業の8割でAIは使われていて、深く使われている作業はごく一部でした。仕事の中身から予測した「使われそうな職業」と、実際に使っていた職業は、ところどころ大きくずれています。ずれた職業を見ると、AIを使うかどうかを何が決めているかが分かります。調査の作りから順に並べます。
セントルイス連銀の4人は、1万4,000人に「10個の作業のうち、どれにAIを使ったか」を訊きました
論文は「What Work Does Generative AI Do?」(生成AIは、どんな仕事をしているか)。著者はセントルイス連銀(米国の中央銀行制度を構成する地区連銀の一つ)のAlexander Bick、ヴァンダービルト大学のAdam Blandin、ハーバード大学のDavid Deming、同じくヴァンダービルト大学のTyler Schumacherの4人です。2026年8月25日版の作業論文(査読前の論文)で、9月1日に同連銀のブログで要約が出ました。
調査は同連銀の「Real-Time Population Survey」(18〜64歳の米国の成人を対象にした、全国を代表するオンライン調査)です。2025年8月・11月、2026年2月・5月の4回で、およそ1万4,000人の働いている人が答えています。
回答者の職業を先に訊きます。米労働省のO*NET(職業ごとに、その仕事を構成する作業と重要度を載せたデータベース。作業はおよそ2,000種類)から、その職業で重要度の高い10個の作業を回答者に見せ、ふだん行っている作業を選んでもらいます。仕事でAIを使っている人には、そのうちどの作業でAIが役に立っているかを選んでもらいます。この結果から二つの割合を出しています。職業ごとに「その職業の人のうち、仕事でAIを使っている人の割合」。作業ごとに「その作業をしている人のうち、その作業にAIを使っている人の割合」。
AIは職業の8割で使われ、深く使われている作業は2.8%です
同じ調査で、仕事でAIを使っている人の割合は、2024年8月の33%から2026年5月の45%に上がっています。仕事以外も含めると45%から62%です。
職業別に見ると、5人に1人以上が使っている職業は全体の8割を超えます。作業別でも、4割を超える作業で5人に1人以上が使っています。論文はこれを「広く」と書いています。
同時に「浅い」と書いています。半分以上の人が使っている職業は全体の40%で、7割を超える職業は16%です。作業では、半分以上の人が使っている作業は2.8%で、7割を超える作業はありません。使う人が多い職業でも、みんなが同じ作業に使っているのではなく、それぞれが違う作業に使っている、と論文は説明しています。
使っている職業の上位に最高経営責任者が入り、下位に受付が入っています
割合が高い職業は、コンピュータ・情報研究科学者87.3%、情報セキュリティアナリスト85.4%、ネットワーク・システム管理者82.4%、プログラマー81.2%、広報の専門職80.4%、個人向けの資産運用アドバイザー79.7%、<strong>最高経営責任者79.7%</strong>、ソフトウェア開発者78.8%と続きます。
低い職業は、動物の世話係5.3%、受付・案内係7.6%、准看護師10.4%、塗装工10.4%、設備の保守・修理工11.2%、ファストフードのカウンター係11.3%です。
作業で高いのは、技術情報を集めるために文書を読む61.3%、調査報告書を作る60.7%、統合されたコンピュータシステムを設計する59.5%、データを分析して傾向や関係を見つける57.5%。ゼロだった作業には、トラックを運転する、医療処置を補助する、患者から検体を採る、客にメニューを示す、修理の記録を付ける、が並びます。
「事務の61%が使う」という予測は、実際には16.8%でした
論文は、職業と作業の中身から「AIが影響しそうな度合い」を数値にした曝露度(その職業の作業のうち、大規模言語モデルがこなせるか速くできるものの割合。OpenAIの研究者らが2024年に出した指標)で、実際の割合がどこまで説明できるかを見ています。職業ごとの割合の違い(職業間の違い)は、指標によって5〜53%が説明できました。作業ごとの違いは7〜44%です。半分から先は、仕事の中身では説明できていません。
ずれの大きい職業を、図に並べます。
予測より少なかった側は、事務に集まっています。受付・案内係は予測54%に対して実際7.6%、医療事務・秘書は61%に対して16.8%、銀行の窓口係は51.8%に対して18.1%、データ入力は56.1%に対して26.7%。作業では、書類の正確さや規則との適合を確かめる作業が予測27.6%に対して7.9%、医療の処方が25.5%に対して4.9%、費用の見積りが27.8%に対して10.7%です。論文は理由の候補として、決まった手順、法令遵守の要件、機密データの利用制限、それに使う動機の弱さを挙げています。
予測より多かった側は、ばらばらです。最高経営責任者は予測52.4%に対して79.7%、事務機器の修理工は36%に対して75.7%、特別支援教育の教員は38.6%に対して70.9%、クリーニング店の従業員は20.6%に対して49%。作業では、事業計画や販売計画を作る作業が27.8%に対して52.1%、法律や判例を調べる作業が27.8%に対して50.1%です。論文はこちらの共通点を、仕事の進め方を自分で決められる度合いの高さだと書いています。「自分の仕事をどう進めるかに裁量があるとき、働く人は指標が想定しなかった使い道を見つけているようだ」。
AIを使うかどうかを作業の種類だけで説明できるのは11.2%、「誰が」を足すと44.0%まで説明できます
同じ作業をしている人の中でも、AIを使う人と使わない人がいます。論文は、一人ひとりの作業ごとの「AIを使った/AIを使わない」を、何を手がかりにすればどこまで説明できるかを試しています。図の下の段がその結果です。
作業の種類だけを手がかりにすると、説明できるのは11.2%です(統計で「どれだけ説明できるか」を表す決定係数)。作業の種類に年齢・学歴・人種・性別を足しても12.7%。作業の種類に「その人が誰か」を足すと、44.0%まで説明できます。論文は「知ることの多くを教えてくれるのは、その働き手が誰かだ」と書いています。年齢や学歴は、ほとんど効いていません。
6か月以上AIを使っている人は、AIを使う作業が増え、仕事以外にも使っています
では、誰かの何が効いているのか。論文が挙げているのは、使った経験です。
仕事で少なくとも一つの作業にAIを使っている人のうち、6か月以上前から使っていた人は、使う作業がいま0.4個多くなっています。回答者は平均4.7個の作業をしているので、9%の差です。同じ職業・年齢・性別・作業数で揃えた上での数字です。
ほかの作業でAIを使っている人ほど、その作業でもAIを使います。仕事で使う人は、仕事の外でも使います。論文はこの三つを、学習の仕組みと読んでいます。一つの用途で使い方を覚えれば、他の用途にも広がります。この仕組みが働いているなら、使う人の割合はこの先も深まっていく、と書いています。
チャットの記録から作った「AIの使われ方」との相関は、0.4以下でした
本紙はVol.51で、米労働統計局がAnthropicとMicrosoftの利用記録を職業のAI曝露度に組み込んだ話を書きました。この論文は第7節で、その種の記録を取り上げています。Anthropic(Claude)、OpenAI(ChatGPT)、Microsoft(Copilot)のチャット記録から作られた作業別の使われ方と、この調査の作業別の割合を比べると、どの組み合わせも相関は0.4以下でした。
理由として論文が挙げているのは、分類の仕方です。ONETの作業は「何をするか」と「何のためにか」が組になっていて、チャットを正しい作業に振り分けるには、使った人の職業が要ります。チャットの記録には、たいてい職業が付いていません。その結果、チャットは「文書を編集する」のような一般的な作業に寄せて分類されます。OpenAIのチャットの15%超がこの作業に分類されていますが、ONETでこの作業を含む職業にいる人は2.4%です。上位10作業でチャット記録の46〜61%を占め、この調査では22%でした。
論文は、チャット記録から作った職業別の割合を曝露度の代わりに使う研究について、「不正確である可能性が高い」と書いています。
論文が自分で書いている限界
回答は本人の申告で、AIを使った作業の中身や時間は訊いていません。対象は米国です。作業は職業ごとの上位10個に限っていて、論文はこれが全体の分布を歪めていないことを別の統計との比較で確かめています。「使うと成果が上がるか」は、この論文の対象外です。
出典:
- Bick, Alexander; Blandin, Adam; Deming, David J.; Schumacher, Tyler「What Work Does Generative AI Do?」Federal Reserve Bank of St. Louis Working Paper 2026-017(初版2026年4月27日、改訂2026年8月25日)
https://doi.org/10.20955/wp.2026.017 - 同「What Work Does Generative AI Do?」On the Economy Blog(2026年9月1日)
https://www.stlouisfed.org/on-the-economy/2026/sep/what-work-does-generative-ai-do - 職業別・作業別の割合のデータ(公開)
https://sites.google.com/view/covid-rps/data - 曝露度の指標=Eloundou, Manning, Mishkin, Rock「GPTs are GPTs」Science, 2024
- 米労働統計局のAI曝露度分類(AnthropicとMicrosoftの利用記録を組み込んだもの)=Vol.51
② 構造
AIが仕事に入る度合いを測る物差しは、三つあります。仕事の中身から予測した曝露度、AI企業のチャット記録、働く人への調査。この号の論文は三つ目で、前の二つとどこがずれるかを数字で出しています。ずれ方から、AIがいまどの段階の道具かが見えます。Vol.60の「給料が下がった層」と、この号の「使っていない層」が重なるところまで置きます。
曝露度は「AIに何ができるか」、チャット記録は「AIが何をしたか」、連銀の調査は「人が何に使ったか」です
三つの物差しは、見ている場所が違います。曝露度は、作業の説明文を読んで、AIにできそうかを人かAIが採点したものです。できるかどうかの話で、使ったかどうかは含みません。チャット記録は、AIの側に残った会話の記録です。使われた作業は分かりますが、誰が使ったかと、使わなかった人は分かりません。Vol.51で書いたBLSの分類は、この二つを組み合わせたものでした。
この調査は、人の側に訊いています。使った人も使わなかった人も同じ職業の中にいて、作業ごとに分かれます。三つ目の物差しが初めて出したのは、使わなかった人の存在です。曝露度にもチャット記録にも、使わなかった人は写りません。
AIは、まだ個人の道具の域にあります
作業の種類で11.2%、その人が誰かを足して44.0%。使うかどうかは、作業ではなく人に付いています。人に付いているのは、AIがいま個人の道具の域にあるからだと読めます。裁量のある人が、自分の仕事の進め方の中で、自分の道具として使っています。
予測より多かった側の共通点を、論文は裁量と書いています。最高経営責任者、修理工、特別支援教育の教員、クリーニング店の従業員。仕事の中身は似ていませんが、自分の仕事の進め方を自分で決める点が同じです。予測より少なかった側は、決まった手順で動く仕事です。受付、医療事務、窓口、データ入力。手順が決まっていて、法令とデータの制限があり、自分で使い方を変える余地が小さい仕事です。
手順に組み込まれた仕組みとしてのAIは、この調査にはまだ写っていません。個人の道具の段階では、手順の中で動く人には届きません。曝露度が外した半分は、ここです。
AIを使う勘所は、使った人に溜まります
6か月以上使っている人は使う作業が多く、ほかの作業で使う人はその作業でも使い、仕事で使う人は仕事の外でも使っています。AIを使う勘所が利用者に溜まっていき、使い方が上達して幅も広がる性質が、AIという道具にあります。
本紙がVol.01で置いた「累積とは、知識が溜まることではなく、ループが回り続けること」と同じ形です。一つの作業で使い、結果を見て、次の作業に使います。ループが回り続けることで、効果が複利のように蓄積します。回り始めた人と回っていない人の差が、同じ職業・同じ作業の中の差として出ています。この仕組みが本当なら、差はこれから開きます。
AIを使っていない層と、給料が下がった層が、重なっています
前号で、AIに近い仕事の新規採用の給料が一番下がったのはジュニア職(渡された作業をこなす層)だと書きました。この号で、使っていない側に並んでいるのは、受付、医療事務、窓口、データ入力です。同じ層です。
二つを並べると、こう読めます。作業をこなす層の人は、自分でAIを使っていません。使う権限が本人にないからです。それでもその層の給料は下がっています。使っているのは、その作業を割り振る側です。前号の論文で、中堅職の40歳以下が下がっていたのは、この構図の途中の数字だと推測できます。使わない人の作業が、使う人の側から溶けていく形です。
③ 自分事
当社は、開発タスクの工数見積をやめました
この調査で、予測より使われていなかった作業の一つに、費用の見積り(予測27.8%に対して実際10.7%)があります。当社は昨年、開発タスクの工数見積をやめました(Vol.51)。案件ごとに個別の受託契約を結び、その中身が工数とその金額だった形を、AIありきの継続開発サービスに転換しました。