求人サイトIndeedの調査部門が、米国の求人票に書かれた年収を2021年から追いました。AIに近い職種の年収は5年で46%上がり、AIから遠い職種の25%を大きく上回っています。同じ5年で、AIに近い職種の求人に占めるエントリーレベル(経験を求めない、入口の段の求人)の割合は29%から10%に下がり、シニアの割合は22%から47%に上がりました。
① 事実
Indeed Hiring Lab(求人サイトIndeedの調査部門)が9月17日に公表した分析です。対象は、年収が書かれた米国の求人票で、件数は数百万件です。AIに近い職種と遠い職種で、求人票に書かれた年収の伸びを比べ、さらに求人をエントリー・ミドル・シニアの3段に分けて見ています。
Indeedは、年収が書かれた米国の求人票を2021年から追いました
著者はIndeed Hiring LabのJack Kennedyです。求人票に書かれた年収の中央値を、2021年から2026年まで追っています。
職種がAIにどれだけ近いかは、同社の指標で分けています。その職種に求められる技能のうち、生成AIで置き換えられるか大きく変わりうるものが、どれだけの割合を占めるかを見た指標です。
AIに近い職種の例として挙がっているのは、ソフトウェア開発、ITシステムと保守、データ分析、マーケティング、銀行・金融です。遠い職種は、看護、介護・在宅ケア、調理・配膳、清掃、製造です。
AIに近い職種の年収は、5年で46%上がっていました
2021年からの5年で、AIに近い職種の求人票に書かれた年収は約<strong>46%</strong>上がりました。AIから遠い職種は25%です。
ChatGPTが出た後に、AIに近い職種の年収がどれだけ上乗せされたかも推計しています。職種の違いをそろえて比べると5.7%で、統計的に意味のある差です。職名の違いまでそろえると4.7%です。
求人の段をそろえると、上乗せは2.4%に縮みます
求人の段(エントリー・ミドル・シニア)の構成の違いまでそろえると、上乗せは<strong>2.4%</strong>に縮み、統計的に意味のある差ではなくなります。
段ごとに見ると、2021年からの年収の伸びの差は、シニアで17ポイント(AIに近い職種45%、遠い職種28%)、ミドルで約12ポイント、エントリーで約2ポイントです。
同ラボは、求人票の年収を測っているため、上昇の一部は「件数が少なく、よりシニアな求人への移行」を映している、と書いています。
エントリーレベルの割合は29%から10%に、シニアは22%から47%になりました
AIに近い職種の求人に占めるエントリーレベルの割合は、2021年の29%から2026年の<strong>10%</strong>に下がりました。シニアの割合は22%から47%に上がっています。
AIから遠い職種でも同じ向きの動きはありますが、その大きさは3分の1ほどです。
求人の段は、求人票に書かれた仕事の中身から判定しています
段の分け方は、同ラボが7月23日に公表した分析(Felix Aidala、Sneha Puri)に書かれています。求人票の文面を機械で読んで、管理の責任、求められる技能、資格の要否といった仕事の中身から判定しています。目安として、ミドルは経験2〜4年、シニアは経験5年以上で、「戦略的な視野、または高度な専門知識」が求められる仕事とされています。
米国の求人全体では、2026年5月時点でシニアの求人が前年より14.7%増え、エントリーレベルの求人は7.5%減っています。それでも全体では、エントリーレベルが46%、シニアが14%で、エントリーレベルのほうが多い構成です。
出典:
- Indeed Hiring Lab, Jack Kennedy「AI Exposure Isn't Squeezing Advertised Pay in the US — It's Boosting It」(2026年9月17日) https://hiringlab.indeed.com/2026/09/17/ai-exposure-isnt-squeezing-advertised-pay-in-the-us-its-boosting-it/
- Indeed Hiring Lab, Felix Aidala & Sneha Puri「The Labor Market Is Tilting Toward Seniority」(2026年7月23日) https://hiringlab.indeed.com/2026/07/23/the-labor-market-is-tilting-toward-seniority/
② 構造
AIに近い職種の年収が上がっている、という数字だけを見ると、AIに関わる人の給料が上がっていると受け取れます。Indeedの分析を段ごとに分けると、上がり方の多くは、募集する相手の入れ替わりで説明できます。前号(Vol.65)でスタンフォード大学の研究チームが給与の記録から示した動きと、求人票の側から同じ方向を指しています。
年収が上がって見えるのは、募集する相手が入れ替わったからです
求人票の年収の中央値は、一人ひとりの給料が変わらなくても、年収の高い段の求人が増えれば上がります。AIに近い職種では、シニアの求人の割合が5年で倍以上になりました。
段の構成をそろえると上乗せが2.4%に縮んだのは、このためだと読めます。エントリーレベルの年収の伸びは、AIに近い職種と遠い職種で約2ポイントしか違いません。入口で募集される人の年収は、AIに近いからといって上がっていません。
スタンフォードの給与記録と、Indeedの求人票が、同じ方向を指しています
前号で扱ったスタンフォード大学の研究では、AIに近い職業で22〜25歳の雇用が、AIから遠い職業の同年代より約19%少なくなっていました。差が開いた理由は、主に若手の採用が絞られたことでした。
スタンフォードが見ているのは、実際に給料が払われた人の記録です。Indeedが見ているのは、会社が出した求人票です。払われた給料の側でも、出された求人の側でも、若手の入口が細っていると読めます。
シニアの定義には「戦略的な視野」が入っています
Indeedがシニアとしているのは、経験5年以上で、戦略的な視野か、高度な専門知識が求められる仕事です。AIに近い職種では、求人の半分近くがこの段になりました。
前号で、新人という言葉の中身が「訓練を受けていない人を育てる」から「訓練を終えていて、実務の判断ができる人」へ変わっていく、と見ていると書きました。Indeedの数字は、その先で、求人が経験者の側に寄っている様子を示しています。
ただし、求人票は会社が出した募集で、実際に誰が採用されたかではありません。求人を出さずに若手を採っている会社があるかどうかも、この分析からは分かりません。