東京商工リサーチは10月5日、4〜9月の「人手不足」倒産が240件だったと公表しました。年度の上半期では、調べ始めた2013年度以来で最も多い件数です。そのうち人件費の高騰が理由のものは130件で、前年の同じ時期の1.7倍でした。最低賃金は、この10月から12月にかけて全国で順に上がります。
① 事実
本紙は、人手不足の倒産を、最低賃金、人を埋める費用、借り入れの三つの面から調べました。東京商工リサーチの倒産の件数と理由に、厚生労働省の今年度の最低賃金を並べました。人を埋める費用は、スポットワーク(数時間単位で、面接なしに単発で働く仕事の形)の仲介大手タイミーが出している時給と手数料で、借り入れは日本政策金融公庫の開業の調べで見ています。
人手不足の倒産は、4〜9月で240件でした
東京商工リサーチによると、2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」関連の倒産は240件で、前年の同じ時期より17.0%増えました。2021年度の同じ時期の26件を底に、5年続けて増えています。対象は負債1,000万円以上の倒産のうち、求人難、従業員の退職、人件費の高騰を理由とするものです。後継者難による倒産は、この集計の対象から除かれています。
理由のうち、人件費の高騰は130件で、前年の同じ時期より75.6%増えました。240件の<strong>54.1%</strong>にあたります。
産業別では、飲食業を含む「サービス業他」が91件、建設業が55件で、合わせて60.8%です。資本金1千万円未満の会社が66.2%を占め、95.4%が破産でした。東京商工リサーチは、賃上げを続けてきた中小企業に「賃上げ疲れ」が出ていると書いています。
最低賃金は、10月から12月にかけて全国で56円上がります
厚生労働省が9月3日に公表した今年度の地域別最低賃金は、全国加重平均(働く人の数で重みを付けた平均)で1,177円です。昨年度の1,121円から56円上がります。昨年度は、その前の年から66円上がっていました。
都道府県ごとの引き上げ額は54円から65円です。東京は1,226円から1,280円になり、10月1日に発効しました。最も遅い沖縄は12月2日です。
タイミーの時給は、1年で4.8%上がりました
タイミーは9月10日、自社に載った仕事のデータをまとめた報告を出しました。5〜7月の三大都市圏の平均時給は1,235円で、前年の同じ時期より4.8%上がっています。タイミーは、最低賃金の引き上げと、働き手の取り合いを背景に挙げています。
募集は全国で411.8万件、前年より13.1%増えました。三大都市圏の外では17.6%増えています。働き手に支払われた賃金の総額は314億円で、18.2%増えました。
タイミーが店に請求する手数料は、働き手に払う給与と交通費の合計に対して、2024年10月期の平均で29.6%でした。仕事が終わるたびに、働き手と店がお互いを「Good」か「Bad」で評価し、コメントも書けます。タイミーは東京証券取引所への開示資料で、この相互評価を仕組みの柱の一つに挙げています。
ゼロゼロ融資を使ったあとの倒産は、累計で2,461件になりました
ゼロゼロ融資(コロナ禍で国の制度として出た、実質無利子・無担保の融資)を使ったあとの倒産は、4〜9月で149件でした。前年の同じ時期より30.6%減り、2023年の335件をピークに3年続けて減っています。2020年7月の最初の1件からの累計は2,461件です。業種別では、飲食店が20件でした。
東京商工リサーチは7月の集計で、1〜6月は業種別で飲食店が最も多かったと書いています。コロナ禍の融資を借り換えた分の返済が始まる時期がピークを迎え、返済できずに条件を変えてもらったり、借り換えたりして先送りしている会社も少なくない、としています。日本銀行は6月に、政策金利を1%程度へ引き上げました。
開業時の借り入れは、平均827万円でした
日本政策金融公庫の2025年度の調べでは、開業1年以内の会社の開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。資金調達額は平均1,219万円で、そのうち金融機関などからの借り入れが827万円、67.9%を占めます。開業した業種のうち、飲食店・宿泊業は14.5%です。この調査には、業種ごとの費用と借り入れの内訳は載っていません。
② 構造
人手不足の倒産を、最低賃金が上がる時期、人が足りない分を埋める費用、倒産として数えられる条件の三つから読みます。4〜9月の130件は、今年度の最低賃金が発効する前の数字です。人が足りない日をスポットワークで埋めると、時給に手数料が乗ります。倒産として数えられるのは、負債を抱えた会社です。
人件費の倒産130件は、昨年度の66円の引き上げのあとに起きています
東京商工リサーチの130件は4〜9月の数字です。この期間に効いていた最低賃金は、昨年度に66円上がった額です。今年度の56円は、この10月から12月にかけて発効します。人件費の倒産は、今年度の引き上げをまだ含んでいない数字だと読めます。
スポットワークで埋めると、時給に約3割が乗ります
人が足りない日をスポットワークで埋めると、店が払うのは時給と交通費に、手数料を足した額です。東京の新しい最低賃金で人を入れた場合、店の支払いは1時間あたり<strong>約1,660円</strong>になります。
自社で雇えば、手数料の代わりに募集の広告や教える手間がかかります。どちらの費用が重いかは、店の事情によって分かれます。
倒産の数字に出るのは、借り入れのある会社です
東京商工リサーチの倒産は、負債1,000万円以上の会社を数えています。借り入れのない店が閉めても、この数字には出ません。240件の95.4%が破産で、立て直しではなく清算に進んでいます。
開業時の借り入れは、全業種の平均で827万円です。店を増やすたびに借り入れを重ねた会社や、ゼロゼロ融資を使った会社は、店を閉めても返済が残ります。人手不足の倒産として数字に出てくるのは、こうした会社だと読めます。