xAIは11月7日から、Grokを外部のソフトから呼び出すAPI(ソフトウェアどうしをつなぐ窓口)で作った文章に、目に見えない印を標準で入れ始めました。AnthropicのClaudeは8月から全世界で、OpenAIのChatGPTは10月からEUで、同じような印を入れています。どの会社も、理由はEUの法律です。各社は、その印で分からないことも自分で書いています。
① 事実
文章に入れる目に見えない印は、電子透かし(人の目には見えない形で、文章に識別のための印を埋め込む技術)と呼ばれます。主要なAIの会社が、この3か月で相次いで入れ始めました。ただし、どこまで入れるかは会社ごとに違い、印を確かめる道具はどの会社も一般には出していません。
xAIは、11月7日から、Grok APIの文章に透かしを標準で入れています
xAIの開発者向けの文書によると、11月7日から、Grokの7つのモデルがAPIで返す文章に透かしが入ります。普通の文章のほか、ほかのソフトが読み取るための形式で返す出力や、AIが道具を呼び出すときの指定にも入ります。
透かしを外せるのは利用する会社の管理者だけで、モデルごとに設定します。外すときは、法律上の例外に当たることと、表示などの義務を自社だけで負うことを確認する必要があります。xAIは、透かしを入れるのは「EU AI法に従うため」と書いています。
Anthropicは、8月から、Claudeの文章に全世界で透かしを入れています
Anthropicは8月14日、新しいClaudeのモデルが書く文章に透かしを入れると公表しました。API、チャットのClaude、開発の道具のClaude Codeなど、Claudeを使うすべての製品が対象です。8月2日より前に出たモデルにも順に広げていて、支援ページの一覧では、主なモデルのほとんどが対象に入っています。
全世界に入れる理由を、Anthropicは「地域ごとに分ける確実な方法が、まだ無い」と書いています。
仕組みも説明しています。AIは文章を1語ずつ選んで書いていき、どの語を選んでも意味が変わらない場面では、乱数で選んでいます。透かしは、その乱数をAnthropicだけが持つ鍵から作るものです。 文字は1つも足されず、鍵を持つ側だけが選ばれた語の並びを確かめられます。
OpenAIは、透かしをEUのChatGPTとCodexに限りました
OpenAIは10月5日、EU域内のChatGPTと、開発の道具のCodexが作る文章に、透かしを入れると公表しました。全世界で標準にはしない、と書いています。APIでは、世界中の利用者が一部のモデルで選んで入れられますが、選ばなければ入りません。
Googleは、2024年からGeminiの文章に自社の透かし(SynthID)を入れています。Anthropicの透かしは、このGoogleの方式を元にしたものです。
OpenAIは、自社の透かしがどこまで見つかるかも公表しています。文章が短いほど、また単語を置き換えるほど見つけにくくなります。
印を確かめる道具は、3社とも申し込みを受けて認めた組織にだけ出しています。
3社が透かしを入れ始めた理由は、EUのAI法の第50条です
EUのAI法(AI Act=EUがAIの開発と利用について定めた法律)の第50条は、文章や画像を作るAIの提供者に、AIが作ったと機械で見分けられる印を付けるよう求めています。8月2日から適用されています。文章の手直しを補助するだけのAIなどは、対象から外れます。
実務の進め方を定めた行動規範には、Anthropicによると、約190の組織が署名しています。行動規範に従うかどうかは任意ですが、第50条の義務は法律です。
② 構造
透かしは、「AIが関わったかどうか」を後から確かめるための印です。各社は、その印で分からないことも公表文に書いています。EUの法律が公表の場面で何を見ているか、確かめる道具を誰が使えるかと並べると、印と法律が見ているものの違いが出てきます。
OpenAIとAnthropicは、透かしで人の関わりは分からないと書いています
OpenAIは、透かしで分からないことを並べています。人がどれだけ判断し、編集し、工夫したかは分かりません。権利や責任がどこにあるかも、書いてあることが正しいかも分かりません。透かしが見つからなくても、人が書いた証拠にはならないとも書いています。
Anthropicも、透かしで分かるのは「Claudeがどこかで関わった可能性が高い」ことまでで、Claudeが書いたのか、大きく手を入れたのかは見分けられないと書いています。人の文章を軽く校正しただけなら、印はほとんど残りません。翻訳は全部の語をClaudeが選ぶので、印が残ります。
米TechCrunchによると、Claudeの利用者からは、考えを出したのは自分で、Claudeは道具だという反発が出ています。
EUのAI法は、公表する文章について、誰が責任を持ったかで線を引いています
第50条は、提供者に印を求めるのとは別に、AIで作った文章を、公共の関心事を知らせるために公表する側にも、AIで作ったと示すよう求めています。ただし、人が目を通すか編集の管理をして誰かが公表に責任を持っている場合は、この表示は要りません。
公表の場面での法律は、道具を使ったかよりも誰が責任を持ったかを見ていると読めます。 一方で、提供者が入れる印は、責任を持つ人がいても文章の中に残ります。
文章の印を確かめる道具は、認められた組織だけが使えます
EUの行動規範は、確かめる道具を無料で出し、AIが作ったものを一般の人が目にするなら、一般の人にも出すことを原則にしています。ただし文章の透かしは信頼性が低く、誤った判定を出しうるとして、確かめる道具を「正当な必要がある、確認された専門家」に限ってよいとしています。挙がっているのは、規制当局、法執行機関、報道、ファクトチェックの団体、研究者、教育機関、市民社会の団体などです。
どの団体を認めるかの基準は書かれておらず、決めるのは鍵を持つ提供元です。制限は「より信頼できる仕組みが出てくるまで」の一時的なものとされていますが、期限の日付はありません。確かめる側と、確かめられる側が分かれていると読めます。
EUの規則が、日本で書かれる文章にも印を付けています
Claudeの印は全世界で入るので、日本の会社がClaudeで書いた文章にも入っています。xAIも、地域を問わずすべての窓口で入れています。OpenAIは、ChatGPTではEUに限りました。
EUの規則が日本の文章に届くかどうかは、使っているAIの提供元が、地域をどう分けたかで決まっていると読めます。
③ 自分事
本紙の原稿も、透かしの対象のClaudeで組んでいます
本紙は、記事の下書きを当社で使っているClaude Codeで組んでいます。使っているモデルは、Anthropicの支援ページで透かしの対象に入っています。海老沢が一行ずつ確かめて直していますが、Claudeが選んだ語の分だけ、印は残っていると考えられます。
海老沢は、小説やニュースレターを書くと「どうせAIでやってんでしょ?」と言われます
小説を書いても、こうしたニュースレターを書いても、「どうせAIでやってんでしょ?」と言われます。
文筆業、エンジニア、作曲家といった専門職の人からは言われません。人を雇って編集プロダクションを回し、下書きを分担してもらうのと、何も変わらないからです。 言われるのは、ものを作る仕事をしたことの無い人からで、それもたまにです。
レトロゲームの界隈では、AIを使った表現が強く批判されることがあるようです
たとえば、AIを使って、プリレンダリング(絵や計算の結果をあらかじめ作り、表にして詰めておくこと)の表を大量に用意したとします。当時のROM容量(ゲームのカートリッジに収められるデータの量)ではあり得なかった量です。実機では出せなかった表現ができます。
そういった、当時の技術や設備では不可能だったことをやると、しつこく批判し続ける人がいるようです。
海老沢は、確かめる道具の渡り先にも、EUの規則にも懐疑的です
確かめる道具を誰に渡すかは、鍵を持つ側が決めています。AIを使うこと自体に強く反対する人の手に渡ることもありうると、私は見ています。
EUの規則には、私は懐疑的です。電気自動車でも、2035年にエンジン車の新車販売をやめると決めたあと、欧州委員会が緩める案を出しています。文章の透かしも、確かめる道具が信頼できるようになる前に、義務のほうが先に決まりました。
海老沢は、作ったものは中身で見るしかないと見ています
成果物そのものの中身しか無いと、私は見ています。
透かしで分かるのは、AIという道具が関わったことまでです。中身が良いかどうかと、誰が責任を持ったかは、印の外に残ります。
ClaudeやGrokをAPIで使って、取引先に出す文書を作っている会社なら、その文章には印が入っています。OpenAIのAPIは、選ばなければ入りません。
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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」
海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。
〈第三部 第70章「墓場」〉
桜井は白石と二人で、一年半分の作業の履歴を、頭から読んでいきます。一見すると、一人の社員がかき回したようにしか見えない荒れ方です。二人は、記録を日付の順に並べ直していきます。
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小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1
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