日本の中小企業でAIの導入が最も進んでいる部門は、総務・管理でした。技術部門ではありません。米国では、求人票の職種名の12件に1件がAIに触れていて、その63%が技術職以外です。求人票を読むと、AIがどの仕事に入り込んでいるかが、募集要項の「歓迎スキル」の欄に出ていました。
① 事実
AIの仕事は、専任の職種として募集されるより先に、既存の職種の募集要項に書き足される形で現れています。米国の求人票では、AIに触れる職種名が4年で3倍以上になり、その3分の2が技術職以外です。日本の中小企業では、AIの導入が総務・管理の部門から進んでいます。求人票の実例と、米国の集計と、日本の調査を並べます。
ジモティーの広告運用の求人票に、「GAS・Python・AIツール等を活用した業務自動化」が入っています
株式会社ジモティー(2011年設立・従業員183名)が出している「ネットワーク広告運用・収益化担当」の求人票です。2026年9月14日の更新分を読みました。
必須要件は、アドネットワーク(複数の媒体の広告枠をまとめて扱う仕組み)やSSP(媒体側が広告枠を売るための仕組み)の事業者か、広告代理店での運用実務経験が2〜3年程度。数値データに基づく効果検証の経験。社外との折衝の経験。ここまでは、広告運用の職種として以前からある要件です。
歓迎スキルの欄に、こう書かれています。「GAS・Python・AIツール等を活用した業務自動化」の経験。GAS(Google Apps Script=表計算や書類を自動で処理するための簡易なプログラム)とPythonは、どちらもプログラムを書く道具です。業務内容の欄にも「AIツール活用による自動化推進」が入っています。
想定年収は400〜700万円。勤務地は東京都品川区で、週2〜3日の出社です。これは、エンジニアの求人ではありません。広告運用の求人です。
米国では、AIに触れる職種名が264から822に増え、63%は技術職以外でした
求人サイトIndeedの調査部門Indeed Hiring Lab(同社の求人票を分析して労働市場の動向を出す部門)が、7月8日に集計を公表しています。米国と欧州5か国の求人票を、2022年1〜3月から2026年1〜3月まで追ったものです。
同ラボは、ある四半期に、その職種名の求人が5件以上「AI」「GenAI」「AGI」「artificial intelligence」のいずれかを含むとき、その職種名を「AIに触れる職種名」と数えています。求人の中身ではなく、職種名の単位で数えた指標です。
米国では、この職種名が2022年1〜3月に264(全職種名の2.6%)、2026年1〜3月に822(8.3%)。およそ12件に1件の職種名が、AIに触れています。
そのうち、63%は技術職以外でした。医療、教育、マーケティング、物流、管理といった分野です。欧州も同じ方向で、ドイツ59%、オランダ58%、フランスと英国が54%です。スペインだけが36%で、技術職が64%を占めています。
同ラボは求人票のAI関連の言及率を日次で公開していて(AI Tracker)、米国では2019年の年平均1.74%から、2026年8月末に6.74%になっています。この日次データに、日本は入っていません(対象はオーストラリア、カナダ、ドイツ、フランス、英国、アイルランド、イタリア、オランダ、米国)。日本の求人票で同じ数字がどう動いているかは、この公表物からは分かりません。
日本の中小企業では、総務・管理の68.3%がAIを入れています
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査です。全国の中小企業10,000社に配り、1,647社が答えています(調査期間は2025年11月17日〜12月12日、実施は東京商工リサーチ)。
AIの導入率は20.4%。検討中の18.6%と合わせて39.0%が前向きです。導入済みの企業が使っているAIは、<strong>生成AIが82.6%</strong>で、次の音声認識・音声対話AI(29.8%)を大きく離しています。
業務部門別の導入率は、総務・管理から順にこう並びます。
- 総務・管理(バックオフィス)=68.3%
- 営業・販売・サービス=60.3%
- 経営・企画=58.5%
- 製造・生産=34.9%
導入の目的は「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で、2位の「品質向上」(32.3%)と50ポイント以上の差があります。
同じ調査で、「従業員のITリテラシーが高い」という項目に当てはまると答えたのは45.1%(「とても」10.0%+「やや」35.1%)。<strong>当てはまらない側が54.9%</strong>です。
出典:
- 株式会社ジモティー「ネットワーク広告運用・収益化担当(メンバー)」(HERP/2026年9月14日更新) https://herp.careers/careers/companies/jmty/jobs/_FMitOj6QROl
- Indeed Hiring Lab, Pawel Adrjan「AI Is No Longer Just a Tech Occupation Story: It's Spreading Across Job Titles in the US and Europe」(2026年7月8日) https://hiringlab.indeed.com/2026/07/08/ai-is-no-longer-just-a-tech-occupation-story/
- Indeed Hiring Lab「AI Tracker」(日次データ・2026年8月31日まで) https://github.com/hiring-lab/ai-tracker
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)調査結果のポイント」 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf
② 構造
新しい技術が仕事に入るとき、まず専任の職種ができる、とは限りません。今回の数字が示しているのは、既存の職種の募集要項が書き換わる形です。誰の担当でもない仕事を、既にいる人が拾います。その拾い方が、求人票の歓迎スキルの欄に載ります。過去の技術も、同じ順番で通っています。
職種が生まれる前に、既存の職種の要件が書き換わります
Indeed Hiring Labが数えたのは、AIの専門職の数ではありません。既存の職種名のうち、求人票にAIの語が入っているものの数です。822のうち63%が技術職以外=医療事務や物流の管理職や営業の募集要項に、AIの語が入りました。
ジモティーの求人票も同じ形をしています。募集しているのは広告運用の担当者で、AIの担当者ではありません。必須要件は広告運用の実務経験のままで、AIは歓迎スキルの欄にあります。
新しい仕事は、まず「誰かが片手間に拾うもの」として現れます。専任が置かれるのは、その後です。前例の無い場所には、分業がありません。 分業が無いので、既にいる人が拾います。拾える人を採りたいので、募集要項の歓迎スキルに書きます。
日本の中小企業では、AIはバックオフィスから入っています
日本の中小企業でAIの導入が最も進んでいる部門が、総務・管理(68.3%)でした。製造・生産(34.9%)の倍近くあります。
総務・管理は、経理も人事も庶務も契約も入る部門です。担当が分かれていない仕事が集まり、文書を作る仕事が多い部門でもあります。導入されているAIの82.6%が生成AIであることと、合っています。
同じ調査で「従業員のITリテラシーが高い」に当てはまらないと答えた企業が54.9%あります。リテラシーが高くないと答えた会社でも、総務・管理には入っています。 誰が使っているかは、この調査からは分かりません。
表計算の「歓迎」が「必須」になったのと、同じ位置にあります
パソコンの操作や表計算ソフトも、かつては求人票の歓迎スキルの欄にありました。専任の「パソコン担当」が置かれた時期もあります。いまは、事務職の募集要項で歓迎スキルとして書く会社は、ほとんどありません。書かなくても前提だからです。
歓迎スキルの欄は、その技術が「できると嬉しいもの」から「できて当たり前のもの」へ移る途中にある、という位置を示しています。欄に書かれている間は、まだ人によってばらつきがあります。 ばらつきが無くなれば、欄から消えます。
求人票が書いているのは、人が作業を設計してAIを使う段階です
歓迎スキルの欄の文面を、もう一度読みます。「GAS・Python・AIツール等を活用した業務自動化」。主語は人です。 人がいまある定型の業務を見て、どこを自動化するかを決め、道具としてAIを使います。
この形では、作業の設計は人が持ったままです。AIは、決まった作業を速くする道具として置かれています。日本の中小企業の導入目的が「業務効率化/作業時間の短縮」に87.0%集まっているのも、同じ位置です。いまある業務を、人ありきで自動化する形です。
本紙は前々号(Vol.61)で、AIがまだ個人の道具の域にあると書きました。使うかどうかが本人の裁量に付いていて、手順に組み込まれた仕組みにはなっていない、という意味です。求人票の歓迎スキル欄は、その「個人の道具」を使える人を探している欄だと読めます。
その先に、作業の設計ごと渡す形があります。