CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.81 / 銅線泥棒の見張りに、Claudeは顔認証を使えません——法律が認めている使い方を、AIの会社の規約が先に止めています。道具の使い道は、誰が決めますか?

お使いのAIの規約に、何に使ってはいけないと書いてあるか、読んだことはありますか。

2026年10月18日 一般公開

Anthropicは10月8日、Claudeの利用規約(Usage Policy=Claudeを使う人と会社が守る決まり)の改定を発表しました。11月12日から、Claudeにドローンや機械を動かさせる場合の条件が加わります。改定後の規約は、本人の同意がない追跡と、顔認証にClaudeを使うことを禁じています。日本では、太陽光発電所の銅線を狙う窃盗への対策として、ドローンで夜の発電所を見回る実証が続いています。日本の法律が条件つきで認めている顔識別のカメラも、Claudeで組むことはできません。

① 事実

本紙は、Anthropicの改定後の規約の本文と発表を読みました。あわせて、太陽光発電所の金属ケーブル窃盗について、警察庁の統計、金属盗対策法、ドローンの警備の実証、個人情報保護委員会の顔識別カメラの考え方を調べています。同じ防犯の場面に、法律と規約がそれぞれ線を引いています。

Anthropicは、Claudeに機器を動かさせる条件を規約に足しました

Anthropicは10月8日に改定を発表し、11月12日に発効させます。理由として、発表には「この1年で、Claudeはより長く、より自立した仕事を担うようになった」と書かれています。改定の多くは既存のルールを明確にするためのものだ、とも書いています。

改定は、Anthropicが8月27日に試験提供を始めたModel Hardware Standard(MHS)に続くものです。MHSは、AIエージェント(人が逐一指示しなくても、自分で手順を判断して動くAI)が、実験室や工場の機器を安全に動かすための共通の仕様です。

新しい条件がかかるのは、人の承認を経ずに、Claudeの出力どおりに機器が動き、次のどれかに当たる場合です。

  • 人がいる場所を動く(車、船、航空機、ドローン、移動するロボット)
  • 怪我をさせうる力を出す(プレス、リフト、ドア、ゲート、コンベア)
  • 熱、圧力、高電圧、レーザー、薬品を制御する
  • 人の体に作用する(薬や気体を投与する、体の中で器具を動かす)
  • 安全のための装置を操作する(消火、緊急停止、警報、人を閉じ込めうる錠のセット・解除・無効化)
  • 故障が働く人や周りの人を傷つけうる工程を制御する

条件は三つです。資格のある人が機器の動きを見ていて、いつでも止められること。その人が介入したときと、Anthropicのサービスとの接続が切れたときに、機器が止まるか安全な状態を保つこと。速さ・力・温度などの上限は、機器か、Claudeとは別の制御装置で効かせること。 規約は、これらの条件が乗り物・航空・医療機器・機械・労働安全の法律や認証に「加わる」ものだとしています。

Anthropicの規約は、機器を見て知らせるだけの使い方を、条件の外に置いています

規約は、条件の外になる使い方も書いています。

  • 機器を動かさずに、見る・感じ取る・知らせるだけの使い方
  • Claudeが作った計画やコマンドを、資格のある人が確かめてから機器で実行する使い方
  • 家庭用の機器で、メーカーが組み込んだ安全の限度の内で動き、最悪でも不快や不便で済むもの
  • 危なくない材料を、閉じた装置の中で扱う実験の自動化

Anthropicの規約は、本人の同意がない追跡と顔認証を禁じています

規約は、本人の同意なしに、人やその持ち物を狙ったり追跡したりすることを禁じています。位置、生体の情報、動き、ネット上の行動、通信、人とのつながりを見張ることが含まれます。顔認証は、この禁止に含まれるものとして名前が挙がっています。

例外は、本人が同意した追跡(不正の検知、口座のマネーロンダリング対策、利用者が自分で申し込んだアプリ)と、集計や匿名化した分析、報道、正規のセキュリティ研究などです。防犯を理由とする例外は書かれていません。

金属盗は2025年に1万5,712件、前年から24.1%減りました

警察庁の「令和7年の犯罪情勢」によると、銅板、銅線、溝蓋やマンホールなど金属類を盗む金属盗は、2025年に1万5,712件でした。統計を取り始めた2020年以降増えてきたものが、前年より4,989件、24.1%減っています。

警察庁は減った理由を「太陽光発電施設からの金属ケーブル窃盗の被害が減少したことが大きな影響を与えたと考えられる」と書いています。そのうえで、金属盗対策法を確実に運用し、抑止と検挙を進める必要があるとしています。

金属盗対策法が禁じたのは、ケーブルカッターを隠して持ち歩くことです

「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」(金属盗対策法)は、2025年6月に公布されました。2025年9月1日からは、一定のケーブルカッターとボルトクリッパーを、正当な理由なく隠して持ち歩くことが禁じられています。対象は、長さ45センチ以上か、ラチェット(一方向にだけ回る仕組み)や電動・油圧の装置が付いたケーブルカッターと、長さ75センチ以上か、電動・油圧の装置が付いたボルトクリッパーです。違反すると、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金です。

工事のために持ち歩くのは、正当な理由の例として挙げられています。 2026年6月1日からは、金属くずを買い取る業者に、相手の本人確認と取引の記録が義務づけられました。

ドローンで夜の発電所を見回る実証が、続いています

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とKDDIは2024年12月12日、1人の遠隔操縦者が、太陽光発電施設3か所でドローン3機を夜間に同時に飛ばす実証をしました。目的は、銅線の盗難に対するドローン警備の有用性を評価することです。発表は、警備業界の人手不足も背景に挙げています。

旭テクノロジー(兵庫県姫路市)は2026年8月6日、茨城県の大規模な太陽光発電施設で、約2か月の実証を終えたと発表しました。自動で離着陸と充電をするドローンの基地(DJI Dock 3)を置き、夜を含めて1日に数回、ドローンに自動で巡回させています。人や車の検知には、ドローンの管理サービスに付いたAIの映像解析と、熱を映すサーマルカメラを使いました。同社は、期間中に盗難は起きず、目視外飛行(操縦者が機体を直接見ずに飛ばすこと)の包括許可を取って、いまの法令の下で続けて運用できることを確かめたとしています。次は、すでにある防犯カメラやセンサーと連携して、ドローンを自動で緊急発進させる仕組みを作るとしています。

個人情報保護委員会は、顔識別カメラを条件つきで認めています

個人情報保護委員会は2023年3月、有識者検討会の報告書を公表し、顔識別機能付きカメラ(あらかじめ登録した顔と照合して、人物を割り出すカメラ)を防犯に使う場合の留意点を整理しました。同委員会のQ&Aでは、事業者に次のことを求めています。犯罪の防止という目的だけでなく、顔識別機能を使っていることも明らかにして利用目的を特定すること。その目的を本人に通知するか公表すること。照合の対象として登録する人の基準を、あらかじめ決めておくこと。入口やカメラの近くに掲示することも勧めています。

② 構造

防犯の同じ場面で、日本の法律とAnthropicの規約は、別の場所に線を引いています。法律が見ているのは、道具を使う人が何をするかです。規約が見ているのは、Claudeという道具を何に使うかです。この違いが、Claudeで組める防犯の仕組みの範囲を決めています。

法律は、使う人の行為に線を引いています

金属盗対策法は、ケーブルカッターを作ることも売ることも禁じていません。同じ工具でも、工事に持っていくのは正当で、隠して持ち歩くのは禁止です。線は、工具を持っている人の理由の側に引かれています。

顔識別のカメラも同じ形です。個人情報保護委員会は、顔識別を防犯に使うこと自体を禁じず、目的を明らかにし、公表し、登録の基準を決めるという、使い方の条件を付けて認めています。

Anthropicの規約は、道具の使い道に線を引いています

Anthropicの規約では、顔認証は目的を問わず禁止です。本人の同意がない追跡も、防犯のためであっても禁止です。機器を動かすなら、法律や認証を満たしたうえに、規約の三つの条件がかかります。

Claudeで防犯の仕組みを組む会社は、日本の法律が認めている範囲より狭い範囲でしか作れない、と読めます。発電所に入ってきた人をドローンで追いかける使い方は、侵入者が同意しないので、同意のない追跡に当たります。

規約は売る側の会社が世界で一本を書き、約1か月で発効させます

法律は国ごとに、国会を経て決まります。Anthropicの規約は、Anthropicが世界の利用者に向けて一本を書き、今回は発表から35日で発効します。法律がまだ決めていないところでは、AIを売る会社の規約が、実質の線として先に効きます。

その線は、売る側が負えるリスクの大きさに合わせて引かれていると読めます。Claudeで組んだ時点で、作れるものの範囲が決まります。

別の道もあります。フランスのMistral AIは10月6日、大型のモデル「Mistral Large 4」を発表し、モデルの重み(AIの中身そのものにあたる数値の集まり)を「月末までに」公開するとしています。重みを手元で動かせば、使い道の線を引くのは法律と自社になり、責任も自社で負います。どのような条件で使えるか(ライセンス)は、発表には書かれていません。

③ 自分事

海老沢は、ドローンを動かせれば発電所の死角が無くなると考えました

固定の防犯カメラには、映らない場所が残ります。ドローンが動いて見回れば、死角が無くなります。そう考えて、Anthropicの規約を当ててみました。これは思考実験です。

Claudeにドローンの巡回を任せるなら、人がいつでも止められること、接続が切れたら安全な状態になること、上限を別の装置で効かせることが条件になります。侵入した人を見つけて追いかけるのは、同意のない追跡なので禁止です。顔で誰かを割り出すのも禁止です。規約のままでは、Claudeでできるのは見回りまでです。

海老沢は、Anthropicの規約は法律を超えていると見ています

Anthropicの規約は、日本の法律が条件つきで認めている使い方を、目的を問わず止めています。法律を超えた制限は、道具を売る立場のリスクヘッジとしては、利用者の創造性に踏み込んでいると私は見ています。

当社の利用規約は、使い方の線を法令に任せています

当社も、個別の契約書をやめ、利用規約でサービスを提供しています(本紙Vol.51。受託開発の個別契約をやめ、AIがあることを前提にした規約に変えました)。当社は、法律を超えて使い方を制限していません。何が合法かの判断は、法令の側に任せています。

規約のままで開いているのは、機器を見て人に知らせる使い方です

Anthropicの規約は、機器を動かさずに、見る・感じ取る・知らせるだけの使い方を、条件の外に置いています。IoT(機器をネットにつないで状態を集める仕組み)で、Claudeに機器を見させ、異常を人に知らせるところまでは開いています。

これまでのIoTは、「この値を超えたら警報」のように、決まったロジックで動いてきました。AIを使うと、決まったロジックの代わりに、考えるレイヤーが作れます。 センサーの値を、時間帯や天気と合わせて読み、普段と違うかどうかを判断して、人に知らせる形です。動かすかどうかを決めるのは、知らせを受けた人です。

海老沢は、法律が追いつかない時期は機会でもあると見ています

AIでできることが増えて、法律が追いついていないところが増えました。線が決まる前の時期は、合法の範囲で、機会でもあると私は見ています。その時期に、どの道具で組むかで、作れるものの範囲が変わります。


今月のモデル

今号は、新ネタ無しです。


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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」

海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。

〈第三部 第59章「もう一枚」〉

運転手が休んだデイサービスの朝、理事長の東が自分でハンドルを握り、リナが送迎の車に乗り込みます。東は、乗ってくる利用者の名前も、膝の具合も、先月あったことも知っています。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part3/articles/ch59

小説を書いている理由

この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。

ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1


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