CoBANTO3-AI

創刊準備号 Vol.85 / 米国の情報産業、生産性が1年で13.7%伸びました——たくさん採れた分は、誰が食べますか?

AIで安く作れるようになった分を、あなたの会社は受け取れていますか。

2026年10月29日 一般公開

米国の情報産業(出版・放送・通信・データ処理)で、労働生産性(働き手1人あたりの実質の産出)が直近1年で13.70%伸びたと、セントルイス連銀(米国の中央銀行制度を構成する12の地区連銀の一つ)のブログが書きました。経済全体は2.17%です。同じ週、米国の投資会社Apolloのチーフエコノミストは、テック大手以外の企業には、AIの収益の効果がまだ見えないと書いています。セントルイス連銀の別の分析によると、生産性が急に伸びた産業では、そのあと値段の伸びが鈍っていました。

① 事実

本紙は、米国の生産性と企業収益についての公表を3本と、日本の調査を2本読みました。米国の3本は、セントルイス連銀の経済データサイトのブログ、Apolloのチーフエコノミストの解説記事、セントルイス連銀のエコノミストの分析です。日本の2本は、帝国データバンクの最低賃金の調査と、日本商工会議所の人手不足の調査です。

米国の情報産業は、生成AIが広まってから、生産性がいつもより速く伸びています

セントルイス連銀の経済データサイトFREDのブログが、10月22日に公表した記事です。情報産業は、出版・放送・通信・データ処理(データセンターを含む)の産業区分です。

記事によると、ChatGPT・Gemini・Copilot・Claudeなどが広く使われ始めた2024年以降、情報産業の労働生産性は、それまでより速く、経済全体よりも速く伸びています。情報産業はもともと伸びの大きい産業で、2010年からの平均でも、経済全体の6倍ほどの速さで伸びてきました。直近1年の伸びは、その情報産業自身の平均も大きく上回っています。

数字では、2025年第2四半期からの1年の伸びが、情報産業で<strong>13.70%</strong>、経済全体で2.17%でした。2010年から2026年までの平均は、それぞれ年7.68%と年1.22%です。情報産業の雇用は、米国の雇用全体の約1.8%です。

記事は、これがAIによる生産性の伸びの初期の兆しである可能性がある、と書いています。言い切ってはいません。

米国では、テック大手7社の売上高と利益率だけが上がり、残りの493社は横ばいです

米国の投資会社Apolloのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏が、10月24日に、自社サイトの短い解説記事「Daily Spark」に書いたものです。比べているのは、テック大手7社(Microsoft・Apple・Nvidia・Amazon・Alphabet・Meta・Tesla)と、米国の代表的な株価指数S&P500からその7社を除いた493社です。

2023年から、テック大手7社は従業員1人あたりの売上高も利益率も上がり続けています。残りの493社は、どちらもほとんど動いていません。

記事の図では、7社の従業員1人あたり売上高(物価の変動を除いたもの)は、2023年初めの約57万ドルから約78万ドルに上がっています。493社は50万ドル前後です。利益率は、7社が約14%から約30%に上がり、493社は10%前後のままです。数字は記事の本文に無く、図にだけ載っています。

スロック氏は、AIが生産性の伸びを押し上げている兆しも見えないと書いています。多くの企業がAIの利用料(トークンの支出)をコストとして扱い始めている、とも書いています。

米国では、OpenAIとAnthropicへの支払いが、ごく一部の企業に集まっています

同じ記事には、米国の法人カード会社Rampが集計した、企業の支出の偏りの図があります。AIへの支払いは、支出の多い一握りの企業がほとんどを占めていて、残りの大多数の企業はわずかしか払っていません。

Rampのカードを使う企業のうち、支出額の上位10%の企業が、OpenAIとAnthropicへの支払いの95.6%を占めていました。残りの90%の企業は、合わせて4.4%です。AIのモデルを動かす計算の支払いでは、上位10%が99.5%でした。

AIへの支出が最も多い上位1%の企業は、80.4%がベンチャーキャピタル(新興企業に出資する投資会社)の出資を受けています。支出が中央の企業では13.1%です。

米国では過去、生産性が急に伸びた産業で、伸びた後に値段の上がり方が鈍っていました

セントルイス連銀のエコノミスト2人が、9月24日に公表した分析です。2006年から2025年半ばまでの米国の85産業について、労働生産性が急に伸びた局面を164件取り出し、その産業の生産者物価(企業間で取引される値段)がどう動いたかを見ています。

生産性が急に伸びた産業では、そのあと1年ほどかけて、値段の上がり方がほかの産業より鈍くなっていました。

生産性の急な伸びが始まってから1年後、その産業の生産者物価の前年比の上昇率は、全産業の平均を<strong>3.7ポイント</strong>下回っていました。平均を下回る状態は、約1年半続いています。例には、クラウドが広がった2012〜13年のデータ処理業や、スマートフォンが出た2006〜08年のコンピュータ・電子機器が挙がっています。

分析は、示したのは関連で因果は確かめていない、と書いています。経済全体の物価にどう効くかは、AIの効果の大きさと、効果が及ぶ産業の広さで決まる、とも書いています。

日本では、情報サービス業の採用時の最低時給が、全業種で最も高くなっています

帝国データバンクが10月16日に公表した調査です。9月14日〜30日に、1万235社が回答しました。企業が人を採用するときの最低時給は、情報サービス業がほかの業種より一段高くなっています。

採用時の最低時給の平均は1,255円で、51業種で最も高かったのが情報サービス業の1,443円でした。

情報サービス業の企業からは、次のコメントが寄せられています。

AIを使いこなせる人は効率よく働けるため、単価を上げることは可能だが、採用する人材の水準も上がり、必然的に少数精鋭の体制となる

コメントした企業の規模は、書かれていません。

② 構造

FREDのブログの数字は、AIによる生産性の伸びが、米国の統計に出始めたことを示しています。ただし、伸びが出た情報産業は、雇用全体の約1.8%です。作る側と受け取る側を分けて見ると、伸びた分の行き先が見えてきます。

生産性の伸びが数字に出たのは、AIを作って売る側の産業です

本紙はVol.33で、セントルイス連銀の別の分析を取り上げました。米国企業の決算説明会で、AIが絡む生産性の発言は95%が「これから上がる」という形で、実際の全要素生産性(設備や人員の増加で説明できない伸び)は1年で0.07%でした。連銀は、発言が「これから」から「すでに得られた」へ移るかを追うと書いていました。

FREDのブログの13.70%は、その「すでに得られた」側の数字の、最初の一つと読めます。出たのは、出版・放送・通信・データ処理の産業です。Apolloの図では、経済全体の全要素生産性はまだ上がっていません。

作る側の伸びは、利益と値段に出ています。受け取る側の伸びは、まだ数字に出ていません

作る側では、伸びた分が二つの場所に出ていると読めます。一つは利益です。テック大手7社の利益率は、約14%から約30%に上がりました。もう一つは値段です。セントルイス連銀の分析では、過去に生産性が急に伸びた産業は、そのあと1年半ほど、値段の伸びが平均より低くなっていました。

受け取る側の数字は、まだ動いていません。

AIを作る側と、受け取る側の数字(米国の労働生産性の伸び/OpenAIとAnthropicへの支払いの偏り/日本の人手不足企業の省力化)

テック大手以外の493社は、従業員1人あたり売上高も利益率も横ばいです。OpenAIとAnthropicへの支払いは、上位10%の企業に集まっています。日本では、日本商工会議所の調査(9月15日公表)で、人手不足の企業のうちデジタル・機械・AIなどで省力化に取り組んでいるのは、従業員20人以下の企業で25.3%でした。301人以上では63.0%です。20人以下の企業では、「事業の縮小、見直し、外注化」で対応する企業のほうが多く、31.6%でした。

本紙はVol.83で、AIを導入した会社は100人以下で16.6%、1,001人以上で78.3%だという調査を取り上げました。規模が小さいほどAIを受け取る側に回る企業が少ない点は、今回の調査と同じです。

足りないまま残っているのは、AIを使いこなせる人だと読めます

帝国データバンクの調査では、採用時の最低時給が最も高いのは情報サービス業でした。AIを使いこなせる人は単価を上げられ、そのぶん少数精鋭になるというコメントが寄せられています。

AIで作れる量が増えた産業で、値段が上がっているのは、AIを使いこなせる人の側です。作る作業は足りるようになり、使いこなせる人は足りないまま残っていると読めます。

③ 自分事

海老沢は、AIでたくさん採れるようになったのは「作ること」だと見ています

野菜は、たくさん採れても持て余します。採れないと値段が上がります。AIで起きていることは、これと同じ形だと私は見ています。

たくさん採れるようになったのは、作ることです。作るだけなら、以前は1週間かかっていた作業が、半日から1日で終わることもあります。

以前は、予算や期間に合わせて仕様を絞り、どれを作るかを選んでいました。いまは、理想に近い形で作れるようになりました。そのぶん、何をどう作るか、お客さんの会社にどう浸透させていくかを、以前より深く考える必要性が、<strong>とても高まっています</strong>。採れないまま残っているのは、AIを使いこなせる人と、この考える部分です。帝国データバンクの調査で値段が上がっていたのも、この側でした。

当社は、作れる量が増えたぶん、受け入れてもらうことに高いスキルを問われるようになりました

当社は、お客さんの業務をシステムの言葉に翻訳し、改善すべきことを提案しています。作れる量が増えても、提案がそのまま採られるとは限りません。受け入れてもらうことに、以前より高度なスキルが問われるようになったと私は見ています。

やらないことのリスクは、お客さんの側からは見えません。健康診断に行くように言われても行かない人や、医師に薬を飲んだほうがいいと言われても飲まない人と、同じ形だと私は見ています。予防医療に予算を割くべきだと分かっていても、それが難しいのとも似ています。リスクは、起きるまで数字になりません。どれから手を付けるか、優先順位を付けるための客観的な材料が足りないままです。

海老沢は、AIの提案は相手に伝わる形で丁寧に伝えないと、稟議を通らないと見ています

最高の提案だと私が考えていても、それを契約まで持っていくのは、かなり難しいことです。この仕事でいちばん難しいところだと私は見ています。

AIのように抽象度の高いものは、相手に伝わる形を丁寧に組んで伝えないと、稟議や決裁を通りません。AIで作った浅い提案を受け続けている人は、より慎重になっているはずです。提案を作るのはAIで速くなりましたが、受け取る側が一つを選ぶまでの手間は、そのぶん増えています。

作る値段が下がっても、受け取る側がそれを使い切れなければ、採れた分は畑に残ります。Apolloの図で493社の数字が動いていないのも、日本で20人以下の企業の省力化が25.3%にとどまっているのも、受け取る側の話です。

あなたが経営者なら、提案を受け取る側にいます。社内でITを担当しているなら、社長に提案する側にいます。どちらの側でも、AIの提案は、作るより、伝わる形にして通すほうに手間がかかるようになっています。


今月のモデル

今号は、新ネタ無しです。


CoBANTO3-AIチャットを無料体験しませんか?

本紙のバックナンバーを記憶し、本紙の読み方(戦略の階層・歴史循環)で、あなたの状況に当てて答えるAIチャットです。記事は「地図」ですが、地図は現地には当たりません。「この号の話、うちの場合はどうなるのか」を訊く場所として用意しました。

調べもの、文章の下書き、ちょっとした雑談にも使えます。 普段づかいのチャットとして、気軽にどうぞ。

2026年10月27日現在で、約20のモデルに対応しています。 新しいモデルも、出たらなるべく早く入れています。モデルの手応えを試す場所としても使えます。

ご利用は事前購入のクレジット制です(1,000円から)。月額の契約ではないので、解約の手続きはありません。使った分だけ減り、無くなれば止まります。

消費は、<strong>基本料金と、答えの長さ(100字ごとに1クレジット)</strong>で決まります。短い答えなら少なく、長い答えほど多くかかります。モデルによって、1,000円で120〜200往復ほど使えます。

読者登録をいただいた方には、無料クレジットを500クレジット、プレゼントします。 登録は、この記事のすぐ下からできます。

CoBANTO3-AIチャットは、こちらから。無料で体験できるので、ぜひこの機会に触ってみてくださいね。

https://www.netkomuten.tokyo/lp/co-banto3-ai


ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」

海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。

〈第三部 第63章「帰る道」〉

介護の法人の案件が、ひとまず一段落します。リナは、八人が肘をぶつけ合うオフィスの、建て付けの悪いドアをまた開けます。桜井さんが、コーヒーを二つ持って、次の相談の話を持ってきます。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part3/articles/ch63

小説を書いている理由

この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。

ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。

https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1


Q&Aコーナー

AI・IT業界に関するご質問を募集しています。CoBANTO3-AIチャットのサポートも、こちらへお願いします。

本紙の通知メール・LINEに、そのまま返信していただけます。

6091文字 ・ 約11分

ほかの読みもの

新しい号から読む

第1号から読む

このチャンネルのポリシー

著作権
チャンネル掲載の記事・小説等の著作権は海老澤敦に帰属します。当該コンテンツの掲載および当サイトの運営・管理は株式会社東京ネット工務店が行っています。その他、当サイトのコンテンツおよびロゴ・商標等の権利は同社に帰属します。
引用
当サイトのコンテンツは、通常の「引用(出典を明記した上で、一部を転載すること)」であれば、事前の連絡なく行っていただいて構いません。ただし、当サイトの文章や画像をAIのトレーニングデータ(生成AIの学習、機械学習、データ解析等)として取り込むこと、およびスクレイピングによる自動収集は固くお断りいたします。 Prohibition of AI Training and Data MiningWhile text quotation under copyright law is permitted with proper credit, the use of any content on this website for AI training, machine learning, text/data mining, or web scraping is strictly prohibited.
リンク
リンクは自由です。事前のご連絡は不要です。