米国の調査会社Gartnerは10月26日、AIエージェント(人が逐一指示しなくても、自分で手順を判断して作業を進めるAI)の導入事例約1,000件を見たところ、投資の回収が確かなものは1割未満だったと書きました。同じ記事で、AIの費用が使う量に応じて読みにくく膨らむことを挙げ、AIを売る側に値付けの見直しを勧めています。同じ日のプレスリリースでは、企業のIT運用部門が上限のない料金でエージェントを入れると、当初の見積もりを大きく超えると予測しています。
① 事実
本紙は、Gartnerが10月26日に出した2本を読みました。1本は「Agentic AI's Next Hurdle Is Cost, Not Capability(エージェント型AIの次の壁は、能力より費用)」という記事で、AIの製品を売る会社の責任者に向けて書かれています。もう1本は、2027年に向けたIT運用のAIの動向をまとめたプレスリリースです。どちらも、数字の多くはGartnerの見立てと予測です。
Gartnerによると、AIエージェントの導入事例のうち、投資の回収が確かなものはごく一部でした
Gartnerは、エージェント型AIの導入事例を約1,000件見ました。そのうち、確かなROI(投資対効果=かけた費用に対して得られた利益の割合)を現時点で出しているものは、10%未満だったと書いています。
記事は、この事例の集まりを「最近のユースケース(使い道ごとの事例)のレビュー」と呼び、そこにAIを売る側の会社が参加していたと書いています。「確かな」の基準がどこにあるのかは、この記事からは分かりません。
Gartnerは、答える前に考えるAIモデルほど、費用が膨らむと見ています
Gartnerは、費用を押し上げているのは推論モデル(答える前に、手順を考える工程を挟むAIモデル)だと書いています。推論モデルは、AIが文章を処理するときの単位であるトークンを、普通のチャットよりはるかに多く使います。AIの料金は、多くがこのトークンの量で決まります。
エージェントの作業1件あたりの推論の費用が2028年までに5倍を超えるという予測は、本紙がVol.39でも取り上げたものです。Gartnerのバイスプレジデント、アネット・ジマーマン氏は、トークンの使用量が急に増え、しかも予測しにくいことが、使う側にも売る側にも、かつてない財務上のリスクになっていると述べています。
Gartnerは売る側に、上限のない従量課金から離れるよう勧めています
Gartnerは、使った分だけを段階なしに請求する料金は、使う側には読めない費用になり、売る側には読めない売上になると書いています。売る側が他社のAIモデルを組み込んでいると、この揺れはさらに大きくなります。
代わりに挙げているのは、前払いのクレジット制、成果に応じて払う形、月額などに成果に応じた分を組み合わせる形です。成果に応じて払う形は小さな会社が先に試していて、大きなソフトウェア会社も検討を始めていると書いています。
ただし成果に応じて払う形では、何をもって成功とするかを売る側と買う側で合意しなければなりません。Gartnerは、こうした契約は、これまでのソフトウェアの契約より密なやり取りと、情報の共有が要ると書いています。
費用を抑える手としては、モデルルーティング(作業ごとに、費用と能力に見合ったAIモデルへ振り分ける仕組み)を挙げています。レビューに参加した売る側の会社の約3分の1が、すでにこれを戦略に入れていました。
Gartnerは、上限のない料金でエージェントを入れたIT運用部門は、見積もりを大きく超えると予測しています
プレスリリースでGartnerは、2027年までの予測を出しています。IT運用にAIエージェントを入れる企業のうち、トークンの使用量に連動する上限なしの料金を選んだところは、サブスクリプションや一括の料金を選んだところより、当初の見積もりを50%以上超える、というものです。
そのうえでGartnerは、AIの支出とトークンの使用量を記録して見られる仕組みが無いものは導入しない、という方針を勧めています。
② 構造
Gartnerの「1割未満」は、エージェントを入れた会社がうまくいっていない話として読まれやすい数字です。記事の宛先は、AIを売る側でした。費用の膨らみ方と成果の測り方の両方を、売る側の課題として書いています。本紙はVol.73とVol.75で、Gartnerのエージェントについての分析を2本取り上げました。その続きとして読みます。
Gartnerの費用の記事は、AIを売る側に向けて書かれています
記事は、売る側の製品責任者に向けて、6〜18か月のうちに取り組むことを並べて締めています。値付けの見直し、価値の測り方を客に見せること、使用量の監視と費用の上限を製品に組み込むこと、です。
約1,000件は、売る側の会社が参加したレビューの事例でした。売る側が見せている事例でさえ、回収が確かなものは1割に届いていないと読めます。ただし事例を誰が出したのかは、記事にはっきり書かれていません。
使う量を増やすほど、回収の見込みは読みにくくなると読めます
推論モデルは、作業の中身によってトークンの量が大きく変わります。同じエージェントでも、何を任せたかで請求が何倍にも割れます。
本紙はVol.39で、AIの単価は下がっても、使い方が変われば請求の総額は増えると書きました。エージェントを同時にたくさん動かすと、この揺れが量の分だけ重なります。費用が読めなければ、回収の見込みも立てられません。使う量を増やすほど、回収の見込みは読みにくくなると読めます。
成果で払う形では、何を成果と呼ぶかを、買う側と売る側が先に決めることになります
本紙はVol.75で、Gartnerがエージェントの導入107件を分析し、成果が出た事例の共通点を「実行」とまとめたことを取り上げました。業務の流れの中で作業を最後まで終わらせ、測れる成果を出していたという意味です。その一つである米国のKodiakは、AIの使い道を25個出したうえで、部品探しの1つに絞っていました。
今回の記事でGartnerは、成果に応じて払う形には、成功の測り方の合意が要ると書いています。回収が確かな事例は、何を測るかが先に決まっていた事例だと読めます。
③ 自分事
海老沢は、世界のエージェントの事例の多くが、実務の外側で予算を使っていると見ています
いくつかの事例を見ると、エージェントを1,000セッション同時に動かしていたり、自動化する必要があまりなさそうな作業を動かしていたりします。実務の外側で、AIを動かすこと自体に予算が使われているように私には見えます。AIを開発している側にとっては、ありがたい需要です。実務で使う側から見ると、回収の見込みが立たない使い方だと私は見ています。
やる前に回収の見込みを確かめていれば、分かったはずの事例が多いと私は見ています。確かめないまま決裁を通ったのか、確かめた上で「うまくいく保証はない」として通ったのか、公開されている事例からは分かりません。
当社は、作りすぎず、規模を徐々に上げていきます
当社は、大きく投資しすぎないように仕組みを作っています。役に立つのか分からない大量の作業をAIで捌いたり、エージェントをたくさん同時に動かしたりはしません。
推論モデルのトークンの倍率は、動かす量にそのまま掛かります。規模は、使いながら徐々に上げていくものだと私は見ています。
当社は、成果が出たときだけ払う形の依頼は、受けていません
成果が出たときだけ代金を払う形を、お客さんから求められたことはあります。当社は、それを受けていません。
仕組みは、お客さんと一緒に作っていくものだと私は見ています。受け取る側が評価を続けない限り、作っている側は、それが正しいのかどうかの物差しを持てません。Gartnerは、成果で払う形には測り方の合意が要ると書いていました。合意した物差しも、使い続ける側が評価を続けなければ、業務の変化に置いていかれると私は見ています。
当社は、AIとクラウドの費用を、実費でお支払いいただいています
当社がお客さんと一緒に作り続けている仕組みでは、AIのクレジットやクラウドの費用を、実費でお支払いいただく形にしています。規模を徐々に上げていけば、お客さんは費用が膨らむ前に請求を見て判断できます。
AIエージェントの成果は、受け取って使い続ける側が測るものだと私は見ています。
今月のモデル
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消費は、<strong>基本料金と、答えの長さ(100字ごとに1クレジット)</strong>で決まります。短い答えなら少なく、長い答えほど多くかかります。モデルによって、1,000円で120〜200往復ほど使えます。
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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」
海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。
〈第三部 第66章「田辺さん」〉
一年半前に取引を切った商社の田辺さんが、桜井を訪ねて東京ネット工務店へやってきます。以前は桜井たちが向こうのビルに日参していたので、ちょうど逆の形です。交換した名刺には、前とは違う肩書きが刷られていました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part3/articles/ch66
小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1
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