公益財団法人の日本生産性本部は7月30日、20歳以上の働く人1,100人に訊いた「働く人の意識に関する調査」の結果を公表しました。職場にAIが入っている人に使い道を訊くと、最も多かったのは会議録や要約の自動作成でした。9月30日に出した「生産性年次報告2026」では、AIを入れた企業でも、従業員の数はほとんど変わっていないと書いています。
① 事実
日本生産性本部は、生産性についての調査研究のほか、企業向けの研修や経営コンサルティングを行っている団体です。本紙は、この団体が出した2本を読みました。「働く人の意識に関する調査」は2020年から続く調査です。19回目の今回は7月6〜7日に行われました。職場のAIについての質問は、1月の前回調査から入っています。「生産性年次報告2026」は、AIと雇用をテーマに、企業へのアンケートと聞き取りをまとめたものです。
働く人の調査では、職場に入ったAIの使い道は、会議録と要約が最も多くなりました
1,100人のうち、職場にAIが入っていると答えたのは289人(26.2%)でした。従業員100名以下の職場に限ると、14.2%です。
この289人に、職場のAIの使い道を複数回答で訊いています。最も多かったのは「会議録、要約の自動作成」の<strong>53.3%</strong>でした。「テキスト、画像などの生成」40.1%、「webやデータベースからの情報収集」31.1%と続きます。報告書は、全体の傾向は前回の調査と変わらないと書いています。
一方で「経理支援」「人事評価支援」「採用活動」は、どれも5%を下回りました。
職場でAIが使えても使っていない人は、半年たっても3割いました
同じ289人に、自分が職場のAIを使っているかを訊いています。「仕事で利用している」が64.7%、「制度上は仕事で利用できるが、使っていない」が29.1%、「制度上利用できない」が6.2%でした。1月の調査では、使えるのに使っていない人は31.4%でした。
1,100人全体には、研修についても訊いています。最近3か月に、勤め先から職場の外での研修(Off-JT=仕事を離れて受ける研修)の案内が特に無かった人は、86.4%でした。
企業への調査では、AIを入れても、従業員の数はほとんど変わっていませんでした
年次報告の企業アンケートは、日本生産性本部の人事関連の活動に参加している92社に送り、33社が答えたものです。33社のうち23社は従業員1,001名以上で、21社は製造業です。「全社的に導入している」と答えた企業が72.7%でした。導入の目的は、全社が「業務の効率化・自動化」を選び、「AIを前提にしたビジネスモデルへの転換」は45.5%でした。
AIを業務に利用している部署の従業員は、81.8%の企業で「変化なし」でした。AIの導入に伴う人員管理は、<strong>「特に何も行っていない」が90.9%</strong>で、「配置転換を行った」は3.0%です。
年次報告をまとめたイノベーション会議の座長で、日本生産性本部副会長の大田弘子氏(政策研究大学院大学学長)は総括で、AIが人を代替する前に、人手不足を補う手段として使われているとみることができる、とまとめています。
② 構造
働く人の調査は、職場に入ったAIがどの仕事に使われているかを示しています。年次報告は、AIを入れた企業で人の数と配置がどう動いたかを示しています。二つは訊いた相手も数も違うので、数字を並べて比べることはできません。本紙はどちらも、AIが職場に入った最初の段階を写したものとして読みます。
職場のAIは、もとからあった作業を置き換える使い方が中心だと読めます
上位に並んだ使い道は、会議録、要約、文章の下書き、調べものです。どれも、AIが職場に入る前からあった作業です。報告書は、使い道の傾向が半年前と変わっていないと書いていました。
企業の側でも、導入の目的は全社が「業務の効率化・自動化」で、AIを前提にした業務の流れやビジネスモデルへの転換を挙げた企業は、それより少なくなっています。いまの職場のAIは、もとからあった作業を置き換える使い方が中心だと読めます。
年次報告の論稿は、AIの効果には人材育成や組織の見直しが要るという見方を紹介しています
年次報告の論稿で、機械振興協会経済研究所長の森川正之氏は、これまでのところ、AIを採り入れたことが企業の生産性を高めた効果は、量的にはさほど大きくないと書いています。そのうえで、汎用技術(多くの産業で使われ、仕事の形そのものを変えていく技術)であるAIが効果を出すには、人材育成や組織変革などの補完的な投資が要るという「生産性Jカーブ効果」を反映しているのかもしれない、と述べています。
座長の大田氏も総括で、人的投資などと結びつかなければ、AIを付加価値の創出につなげることはできないと書いています。
使い道が広がるかどうかは、使い始めたかどうかで分かれると読めます
本紙はVol.61で、米国のセントルイス連銀(米国に12ある地区連邦準備銀行の一つ)の調査を取り上げました。6か月以上前からAIを使っている人は、AIを使う作業が増え、仕事の外でも使っていました。一つの用途で使い方を覚えると、他の用途にも広がるという読み方です。
日本の調査とは国も調べ方も違うので、そのまま当てはめることはできません。それでも、使えるのに使っていない人の割合が半年でほとんど動いていないのは、入口で止まっている人が一定数いることを示していると読めます。
③ 自分事
海老沢は、汎用チャットで要約をさせている段階は、AIの導入とは言えないと見ています
会議録や要約は、部下や若手がいればAIが無かった頃もやっていた仕事です。
汎用チャット(用途を決めずに、質問を書くと答えが返ってくるAI)で要約をさせているくらいでは、AIを導入したとは言えないと私は見ています。
AIが要約を書くようになっても、要約をしていた人と新人は、今も会社にいます
AIが要約を書くようになっても、それまで要約をしていた人も新しく入った人も、今も会社にいます。年次報告でも、AIを業務に使っている部署の従業員は8割の企業で変わっておらず、配置転換をした企業は3.0%でした。
要約をAIに任せて空いた時間が何に使われているかは、二つの調査からは分かりません。
当社のお客さんの会社にも、AIが使えるのに使っていない人がいます
当社のお客さんの会社では、社員は職場にAIが入っていることを知っています。それでも、使えるのに使っていない人はいます。
スマホゲームのチュートリアル(遊び始めに、操作を一つずつ指示して進める案内)のように、何をすればいいかを一つずつ示さないと、使い始めない人もいます。そうやって使い始めても、道具を自由に使うところまでは至らないと私は見ています。
海老沢は、いまの職場のAIは、初期のマイコンブームに似ていると見ています
職場にAIは入っても、道具として自由に使っている人はまだ一部です。チュートリアルのように固まった使い方を示さないと、使えない状態です。
初期のマイコン(個人で買える小型のコンピュータ)も、多くは高価なゲーム機の代わりとして役目を終えたと私は見ています。
海老沢は、会議録をAIに任せると、プロジェクトの推進力まで失われることを危惧しています
会議の議事メモは、私は話しながら書いていました。事業の議事メモは、国会や裁判所の記録のように発言を正確に残すものとは、目的が違います。会議の場で合意を形にし、そこから誰が何をするかのコミット(実行の約束)を作るためのものです。TODO(やることの一覧)に落とすだけでは足りません。会議録の自動作成が置き換えるのは、そのうちの書き取る部分です。
書き取るのをAIに任せたまま、合意から実行の約束までを固める人がいなくなると、プロジェクトの推進力が失われるのではないかと私は危惧しています。
海老沢は、議事メモをAIに任せると、若手が仕事の中身をつかむ機会も減ると懸念しています
若手はこれまで、議事メモのような作業を入口にして、部署や会社の運用がどういう力学で動いているのかを見てきました。業務の細部を覚えるのも、そこからでした。議事メモをAIに任せると、その機会が減ることも懸念しています。
AIは、もっともらしい文章を書きます。間違いや誤認に気付かないまま議事メモを作って共有し、受け取る側も気付かない、ということも起こりかねないと私は見ています。
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ライトノベル「ようこそ、東京ネット工務店へ」
海老沢が執筆している、IT業界のお仕事小説です。毎号1話ずつご紹介します。
〈第三部 第67章「出血を止める」〉
田辺さんの会社のシステムは、いま燃えていて、取引先にも迷惑がかかっています。頭を下げに来た田辺さんに、桜井は、受けるかどうかはまだ決められないと答えます。そのうえで、決めるより先にやることと、二つのお願いを口にします。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/novel-tnk-part3/articles/ch67
小説を書いている理由
この小説は、もともと、社内の教育のために書き始めました。うちの会社——東京ネット工務店で、新しく入った人間に、この仕事の考え方を伝えるための、いわば教材でした。戦略の階層とか、取捨選択とか、口で言っても、なかなか伝わりません。だったら、物語にして読んでもらったほうが早い。そう思って、書き始めました。
ところが、いろいろあって、その教材が、要らなくなってしまいました。理由は、いろいろあります。ここには、書ききれません。ただ、宙に浮いてしまった原稿を、捨てるのも惜しくて、何度も書き直しながら、今度は、教材ではなく、ただ読んで面白い、お仕事小説として、作り直していきました。
https://www.netkomuten.tokyo/channels/atogaki/articles/atogaki-1
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